『象の消滅』/村上春樹

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

 この本は、ニューヨークが選んだ村上春樹の短篇選集、の日本語版である。わたしは随分前から村上春樹の作品が好きで小説に関しては全て読んでいる。なのでもちろんこの短篇はそれぞれの収録本で既読の作品である。それなのに、今これを1冊の本として読み通すと、まるで別の作品かのように新鮮だから不思議だ。むしろ何というか、そう、それこそアメリカ文学の短篇、それの翻訳を読んでいるかのようだ。『レーダーホーゼン』にいたっては、英語版のさらに日本語訳という形をとっているというのだから、あながちその感覚も間違いではないようだ。
 村上春樹の作品は、いつ読んでも古さを感じない。色褪せたりしない。19歳の頃『風の歌を聴け』を羽田行きの飛行機の中で読んで以来十数年、いつ読み返してもどんな状況に置かれていても、そのときどきの受け入れ方がある。感じることが多少変化していても、やはり作品はわたしの一歩前を歩いていて、追いつけない、そんな感じだ。他人行儀のような、だけれども、いつまでもその背を見失わないような、そんな距離感をずっと保ってつきあい続けている。
 わたしの人生に村上春樹がなかったら、どんなものだったろう?作品を読んでそこで何か行動を起こしたわけでも、人生が激変したわけでもない。しかし、わたし、という人間、この精神の構造において彼の作品がなかった場合を想像するのが難しい。何かしら別の感覚を身につけてはいただろうけど、少し物足りない気がする。そんな仮定の話をしたって仕方がないけれど、本当に、村上春樹なし、の状態が想像できないのだ。わたしにとって、他にそんな作家がいるだろうか?と考えてみたが、ちょっと思いつかなかった。
 この黄色い表紙に半透明のカバー、そして紙の質や色、そんなのからもアメリカを感じることができる。アメリカで発売されている装丁はまた違うのだけど、日本人がイメージするアメリカの本とはこんな感じだと思う。
どうもこの本を読んでいると、英語版も読んでみたくなる。
The Elephant Vanishes: Stories (Vintage International)

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