ストレートにダイレクト、はかなく美しい恋愛小説

愛と死 (新潮文庫)

愛と死 (新潮文庫)

 こんな時代がありました。わたしは知らないけれど。
 主人公村岡は、友人である野々村の妹夏子を好きになり、次第にお互い惹かれあい結婚を誓う。しかしヨーロッパ留学を控えていた村岡。夏子もそれを応援してくれ、帰国したら一緒に暮らそうと、お互いに待ち望んでいたにも関らず、村岡は帰国の船中で夏子急死の報せを受ける。
 ネタバレもいいとこだが、新潮社文庫カバー裏の要約にはこんなようなことが書かれている。要するに、意外な展開を楽しむ小説ではなく、この近代文学の世界に酔いしれなさいよ、ってことだ。
 現代を生きるわたしたちは、求めれば多くの刺激を得ることができる。そしてその刺激に麻痺して何か元々あった土台が一段上がってしまったような、そこが基本の立ち位置だと思ってしまっているところがある。しかしこの小説を読むとき、村岡と夏子の清らかさや、相手を思う気持ちの純粋さ、多くを求めない献身さに心を打たれ、その麻痺した土台から一旦降りて、本当に必要なものは何だろうかと自分を振り返る機会になるのではないかと思う。だって、あまりにも清らかなんだもの。彼らは、洋行前に、二人で部屋を取るも接吻以上はしないのである。帰国してから、そういう関係になるということで満足するのである。もちろんそれも叶わぬ夢となってしまうのだが。
 『愛と死』だなんて、あまりに直球勝負なタイトル。現代じゃつけられません。現代の小説のスピード感とかメタファーだらけのカーブに疲れたら、基本の直球に立ち戻ってみるのも手かもね。