封印された過去に触れる

ハンセン病重監房の記録 (集英社新書 (0339))

ハンセン病重監房の記録 (集英社新書 (0339))

 ハンセン病について、わたしは詳しく知らない。何年か前に、ニュースステーションという番組で元患者の特集をやっていて、何気なくテレビをつけていたわたしは、何か強烈にひきつけるものを感じて見入ってしまった記憶がある。それがハンセン病という病を初めて知ったとき。何がどうしてこうなるのか、見当もつかず、すぐにインターネットで情報を探した。この病気が「らい菌」によって引き起こされること、その言葉が差別用語であることを知った。顔や身体の変形や皮膚病による臭いなどが差別を増大させる結果となってしまうらしい。今は特効薬が見つかって、たとえ発症したとしても軽症で回復するそうだ。それでも人々に残る差別意識というのは今だにあるという。
 この本に書かれているのは、今から70年ほど前、国がハンセン病患者を強制的に社会から排除し、人里離れた療養所に収容していたときの話だ。治療とは名ばかりで、患者はそこで過酷な労働を強いられることとなる。彼らは病によって手足の感覚が麻痺しているため指先を無くすことが多かった。この病気が、菌による感染の病気であり、遺伝性のものではないとわかったあとも、患者の子孫を断つため、断種が実行されることもあった。子どもが出来てしまった場合には、無理やり中絶させられ、妊娠7ヶ月のある女性は取り出した胎児を目の前で殺されたという。また、反抗的とされる患者は重監房に入れられ、監禁された。ここは「日本のアウシュビッツ」と呼ばれるほど、劣悪な環境だった。コンクリートで囲まれた暗い部屋、高いところに取り付けられた開かない小さな窓、両手がやっと入るくらいの食事を入れるための穴。冬は寒くてマイナス20℃近くまで下がる。そこに何ヶ月も入れられる。衰弱。精神に異常をきたすものもいる。
 彼らは、まったく人として扱われていなかったのだ。国をあげて、醜いものは徹底的に排除する、というやり方。しかも、満足な治療もせず虐待のようなことが日常的に行われていた。この人たちを「完全に消し去りたい」と思っているのだから、それは死んだって構わないということだ。 病気になっただけでつらいというのに、それに加えて人間としての尊厳まで失われるなんて、あまりに過酷だ。わたしは、ここから何を学べばいいのだろう。そこで死んでいった彼らに思いを馳せ、そして生きてそこを出られたサバイバーたちの現在の幸せを祈ることしかできない。どうか、どうか、ほんの一瞬でも、過去の痛みを忘れ、この世界で平穏なこころを取り戻せますように。