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東京で

だれかのことを強く思ってみたかった     集英社文庫

だれかのことを強く思ってみたかった 集英社文庫

 東京の写真。街、人、風景。明るかったり暗かったり、賑わってたり寂しかったり。何てことない風景。日常。いつか終わるだろう日常。この街にやって来る人や去る人、希望があったり挫折したり、出会ったり別れたり。東京の街で過ぎ行く日々をショートショートの小説で綴る。ある日の風景がしっかりと焼き付けられる。儚くて切ない。
 実はこの本、結構前から欲しかったけれど、今手に入れたのには何か意味があるのかもしれない。本は読まれるべきタイミングで読まれる、というのはいつもわたしが思っていることだ。
 当時、わたしは札幌で暮らしていて、比較的近所にある大きくて新しい本屋さんでこの本を手に取った。北海道の爽やかでひんやりとした空気を吸って暮らしているわたしは、東京の匂いなんてすっかり忘れていた。初夏の、このしっとりとした空気、暑い夏へと向かう感じ、電車の音も。きらきらしたネオンも。今、こうして東京で暮らし、この本を手に取る。伝わって来るのは、始まりと終わり。一連の流れ。やって来て去るまでの。
 うまく言えないけれど、この本に詰まっていることは、今でなければわからなかったような世界。
 角田光代があとがきで書いていることがわたしの中での東京の位置に近いように思ったので最後にそれを引用しようと思う。

 東京という町を、たとえば、バンコクとかベルリンとかハバナとかのように、好きか嫌いかと思うことは難しい。好きでもないし、嫌いでもない。あるいは嫌いだし、同時に好きでもある。そんなふうに思える町があること、そんなふうに関ることのできる場所があることを、私はとてもうれしく思う。