閉鎖された世界とそこを行き来する人間と。

切羽へ

切羽へ

 『オール読物』に載っていて、全部読ませてくれるのかと思いきや(抄)とかなっていて、途中まで読んで続きが気になっていたのだけど、今更買うのも面倒でうだうだしていたら、吉祥寺の行きつけの濃い古本屋で夫が見つけてくれた。半額以下で購入。
 たとえば、ハラハラするような展開だとか、ぐっと惹きつけて思わせぶりな態度をとるだとかいう文章はあるけれど、そんなのとは対極にあるような、穏やかで淡々とした文章、物語だった。帯を読んだときには何やらこう、切なくもドロドロとした感情の絡み合い云々、もう言ってみれば昼ドラすら彷彿させるようなのを想像していたのでちょっとした驚きだった。
 島での暮らしと、そこに出入りする本土の人間がじわじわと、けど確実に引き起こしていく何か。読んでしまえば、本当に何だったのだろう?と思うような出来事。でも、実際の生活はそうなんだよ。起こりそうで起こらない。進みそうで進まない。始まりそうで始まらないと思いきや、すぐに終わってしまったり。そういうのが連なって日常になってる。
 退屈でもあり、ホッとするような気もする。よくわからない。
 『切羽へ』は、もう一度読み返すことはないだろうと思うのだけれども、この感じは好きなのか、嫌いなのか、と聞かれたら、好きと答えるだろうな、私は。これを読んでもやもやする人もたくさんいるのも想像つくし、直木賞ってだいたいもやもやする作品が多いけど、これは本当に静かにして、言葉を心に沁みさせて、それをせっかちにならずに味わうことができる人のみ堪能できる作品だと思うんだ。