『モンテ・フェルモの丘の家』を読む

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)

 須賀敦子さんの本が読みたいが、まだ本を入手していない。そういえばと思いだし、家にあった世界文学全集を手に取る。ここに収録されている『モンテ・フェルモの丘の家』/ギンズブルグは、須賀さんの訳だったのだ。この小説は書簡体で書かれているが、それが単なる往復書簡ではなく、数人が入り混じってそれぞれがそれぞれに宛てた手紙から、徐々に事実が明らかにされていく。かつて「マリゲリーテ」と呼ばれるその家で集った若者たちが、時の流れとともに生活や関係性が変化していき、何もかも楽しかったようなあの日々は、遠い昔となる。もっと、もっと自由と快適さを、幸せを、求めて突き進むその先で、少しずつ歯車が狂い始める。
 わかってしまう、この切なさ。私はそれを理解できるほどに何かを経験し年をとったのだ。良い思い出の場に、いつかと同じものを求めても決して得られないものがあることを知ってしまった。私たちはとにかく前に進むしかないのだと思う。過去のあの場面だからこそ、それは輝いて見え、すべてがうまくいっているかのような気になっていただけなのだ。今、この一瞬に気持ちを集中させる。もう、気づいているから。幸福のさなかにも、それが不変のものではないということにすっかり気づいてしまっているから。とにかく瞬間だけを生きようと私は決めた。決めたけれど、未来を思い煩い、過去を悔むのがまた人間で、そこに本質があるのもまた然り。それこそがまさに人生の醍醐味ともいえるのだ。
 ああ!イタリー、進むごとにこの暗澹たる空気の中に、自由奔放が溢れてる。それによって私はつくづく自分が日本人であることを実感する。