富士山

富士山 (文春文庫)

富士山 (文春文庫)

 いつだったか、古本屋で見つけて購入し、ずーっと放置されていた田口ランディの『富士山』を本棚の奥から何気なく引っ張り出し、何となく読み始め、気づいたら読了。やっぱうまいなー田口ランディは。それでもやっぱり『コンセント』3部作が好きなんだけど、私。引き込まれて怖くなって、途中で本を閉じれずに最後まで読み切ったもの。
 この本は、富士山にまつわる4つの話だ。その中から2つを紹介。
■青い峰
 主人公は元カルト教団信者でコンビニ店員の男。何かあったら、とりあえず「ありがとう」と言えばいいと、社会復帰支援ボランティアの人から教えられた。彼は同じバイトの10歳下の女の子に翻弄される。しかし、そこから繋がっていく「人間」としての感情。男に好意があることをそれとなく伝える女の子に対して男は思う。

こずえの言うことがわからない。言葉には二つある。伝えるための言葉と、それ以外の目的の言葉。要件を伝える言葉なら僕にもわかる。でも、それ以外の言葉は僕にはわからない。あるいはわかるのを拒否しているのかもしれない。もしかしたらわかるのが怖いのかもしれない。わからない。わからないことはあまりいい気分ではない。なにかがからむのだ。身体にまとわりつくなにか。わからない言葉を使う奴には戦略がある。わからない言葉は呪詛だ。

 わからない言葉、使ってしまうなー。本当はそれ言いたいんじゃない。けれど、察してくれーっていう。男の人には伝わらないこと多い。何なんだろね、様子うかがってる言葉なんだろうなぁ。ストレートで勝負する自信がないのか。主人公も、女の子も、少しずつ自分に欠落した部分を埋めあっていくのだね。デコボコだけど、心地よい。

■樹海
 中学を卒業し、高校に入学する前の男の子3人が「思い出作り」のために樹海へと入る。暗闇でそれぞれの秘密を打ち明ける。生きてることと、死んでしまうことについて語り合う。そこで3人が見つけたのは自殺に失敗をし、生きてはいるが意識を失った中年男だった。助けるべきかどうか・・・。

「知らんふりしろなんて言っていない。僕はただ、見ていてあげたいと思う。この人は死にたがっている。こんなに薬をたくさん飲んで、きっと精神病だったんだよ。精神病ってさ、精神が病んでるって思ってるだろ。違うんだよ。サトシだって言ったじゃないか。人間は脳を通して外界に反応しているだけ、真のありのままの外界を捉えることはできない、自分が編集した世界しか見ることができないって。頭が変だってのは、周りの人間が勝手に言うことなんだ。自分にはその世界しかないんだよ。狂った世界しかないんだ。それがすべてなんだ。自分の頭に自分を閉じ込めてる。いくら他人からそれは幻覚だとか妄想だとか言われても、他人の目で世界を見れないならどうしようもない。自分が生きてる限り自分の認識世界から抜け出すことはできない。だけど、親とか、医者とか、友達とか、みんなからオマエは変だと言われたら、すごく悲しいんだよ。そこから抜け出したいと思うんだよ。じゃあ、抜け出すためにはどうする?脳を破壊するっきゃない。意識を終わらせるしかない。それが死だとわかっていても脳を殺すしかないだろう。それが唯一の方法だ。だから死ぬんだ。死にたくて死ぬんじゃない。意識から解放されたいから死ぬんだ。・・・」

 中学生がここまでわかっていたら怖いんだけど、何かこのセリフが印象に残ってしまった↑
 世界に真実が一つだとしても、認識する人間がいなければそれを真実だとは誰も知ることはない。私が見ているこの世界は、あなたが見ている世界と全く同じと言えるだろうか。認識の数だけ世界があって、みんなそれぞれの世界が少しずつ重なり合って生きてるのかもしれない。肉体に閉じ込められている感覚、私は時々感じる。そして、何故、この入れ物だったのか、とよく考える。もっといい入れ物欲しかったなーって(笑)