「今は失われてしまった何か」についての物語

海 (新潮文庫)

海 (新潮文庫)

 久しぶりに小川洋子の短編を読む。日常、のような風景、ありそうな世界、だけど、扉を開けると奇妙な世界。全部がやさしくて、毒々しい。静かにうねるような空間。私は中でも「バタフライ和文タイプ事務所」が気に入った。穏やかで、淡々として、官能的。
 今日、大学の講義で「自明性の喪失」について先生が話していたけれど、そことリンクするような感じ。私はよく想像するんだけど、今、目の前に広がってる景色、話している相手、っていうのが、自分以外全部作りもので、私のためだけにセッティングされた世界だったら?って。たとえば、私がこの部屋にある扉を開けると、そこに世界ができて、その扉から外に出た途端に今居たはずの部屋が消える、みたいなこと。夢だったらきっとそうだ。自分の視界の外ではすべては「無」で、誰もそこで歩いていたり、話していたり、働いていたりなんかしていないはずだ。小川洋子の小説を読んでいるといつも、そんな感覚に陥る。完全に迷い込んでしまう。
 自明性の喪失についての本
自明性の喪失―分裂病の現象学

自明性の喪失―分裂病の現象学

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)