すでに未来はなつかしい

らくだこぶ書房21世紀古書目録

らくだこぶ書房21世紀古書目録

 素敵な本を読みました。予備知識なしに、装丁や中の写真に惹かれ入手した本だったのですが、読み進めるごとに宙に浮いたような気分になって、わたしが今居る場所すら見えなくなるような気がしました。
 未来から送られてくる古書目録。今、ここにいる私たちはまだ手にしたことのない、これから発行される本(だけど古本)が沢山載った目録。それがAIRMAILならぬSANDMAILによって、この本の著者である、クラフト・エヴィング商會に送られてきます。1カ月に1冊のみ注文が可能。注文をし入手した本の内容を紹介したのがこの本、というわけ。
 たとえば、「茶柱」という本。茶柱研究者による茶柱についての美学哲学が語られています。
 「絶対に当たらない裸足占い・2049年版」は、もともとは理髪店の店主が、裸足になってみて気づいたことを記しているうちに、だんだんといろんなことが見えるようになり、当たると評判になったために出版した本。
 「7/3横分けの修辞学」は、男性の髪型シチサンの文化史。美しい横分けスタイルを確立するため、次世代に伝えるための熱き思いが伝わってきます。
 「A」という本は、答えだけが記された本。どこかに「Q」という本があってくれたら・・・・と願います。

 どの本も装丁が大変美しく、様々な工夫と遊び心が隠されています。
 中でも「世界なんて、まだ終わらないというのに」という本は、特殊インクを使用、印刷されてから半年から1年後に初めて文字が浮かび上がってくるという特性を持っていて、しかも時間差で1年がかりで印刷するため、手にしてから一気に読むことはできません。毎日、浮き上がってくるかどうか確認しつつ読み進めることになるのです。さらには、このインク、また時間が経過すると今度は白紙に戻ってしまうという性質を持っているから大変です。 クラフト・エヴィング商會が手にした時にはすでにページは真っ白だったと書かれています。
 もちろん、すべてフィクションだけれど、「この本、読んでみたい!!」なんて思いながら、ページをめくって未来の古書の世界に浸りました。しあわせ。大好きな本に出会えた喜びでいっぱいです。私はこういう気分になりたかったのだ!と気づきました。
 今、この、い・ま、はすでに過去になり、未来だったそこが現在、と言ってるあいだに過去になる。この瞬間の、わたしの感情、この空気、発する言葉や、匂い、感覚・・・何もかもがきっと、すぐに懐かしいものになるのだと思います。わたしはいつも、瞬間ごとにそれを感じます。楽しんでる今も苦しんでる今も全部、懐かしくなると、どこかでわかっていながら過ごしている、それを常に意識しています。この感覚がわかる人なら、この本は絶対に好きだと思います。