百合子さんは何色

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 様々な角度から百合子さんを覗く。泰淳氏の小説から、娘、花さんから、弟、修さんから、埴谷氏から、友人など。泰淳氏と同じく、百合子の勤める喫茶「ランボオ」に通っていたというY氏(百合子の過去の恋人)のことまで。多角的になればなるほど、鈴木百合子・武田百合子の芯の通った生き方が見えてくる。彼女の文章に流れる血は、武田の口述を始めてから養われたというよりは、天性のものであるということが村松の一貫した考えだ。そしてそれは今やだれもが認めることだろう。
 あの埴谷雄高をも慌てさせた事件には笑った。泰淳の代理でパーティに出た百合子。そのあと埴谷夫妻と酒を飲み、夜中の1時に埴谷夫妻が赤坂の武田家まで送り届けたはずが・・・・(以下埴谷氏の回想)

 私達にとってまだ夜明けでない午前六時に電話のベルが鳴った。眠い眼で女房が出ると、花子さんの静かに落ち着いた声で、母はまだそちらにいるでしょうか?と訊いてきたのであった。私の生涯でまったくすがりつくべき一本の細い藁もないほど気が動顛したのはこのときだけで、電話の傍らに立っていた私は、しまった、扉の前まで送ってゆかなかったので、百合子さんは氷川神社裏の暗い谷底へ落ちた、とその瞬間思ったのである。赤坂コーポラスの各部屋へはいる通路の反対側には高い手すりがあって、そこから向こう側へ落ちることは通常ないけれども、酔っていないと自身いったものの実は芯で酔っていた百合子さんはなんらかの具合でそこを乗り越え下の深い谷へまで落ちてしまった − そう私はもはや取戻しようもなく動顛しながら直覚したのである。花子さんは、父は四時頃から手帳を出してここへかけろというんですけれど、あまり早いからと私がとめて、今かけたのです、というので苛ら苛らしている武田が夜中ずっと起きていて、だんだん薄暗い不安におちこみ、ついに、埴谷のやつ、と抑えきれぬ怒りさえこめて花子さんをせっついているさまが花子さんの落ち着いている言葉の向こうに彷彿とした。
 確かにコーポラスの玄関まで見送ったのだけれど − といったまま絶句している女房の後ろで、私は武田に一生会わす顔がなくなったと暗い海の底の底へ恐ろしいほど「底もなく」沈んでゆく気持になったのである。

 その後、寝室を覗いたらば、百合子さんは、布団をかぶって寝ていたのだった。いつもは靴など玄関に投げ捨てて部屋に入っていたのに、この日はそんなに酔っていなかったので、丁寧に靴箱に入れたのがこの大騒動を巻き起こした。百合子の周りでは男たちはみな翻弄されている。
 そして久しぶりにこの本を開く。

KAWADE夢ムック 文藝別冊 武田百合子

KAWADE夢ムック 文藝別冊 武田百合子

 なんか、圧倒的。それは、今この世に存在してようがしてまいが全く関係ない。生死を超えて圧倒的存在感。格好良すぎる女。一体どうしたものか。